活躍するバイオリソース

「未来を拓く植物のチカラ」

荒廃地でも育つ植物を
開発して食料と競合しない
バイオマス増産を目指す

小林 正智
(実験植物開発室 室長)

最近、地球規模での異常気象が立て続けにおきています。大雨や旱魃、冷害や巨大台風は人々の暮らしを直撃するだけでなく、森林や田畑の作物にもダメージを与え、いっそうの環境破壊や食料価格の高騰をもたらしています。そしてその犯人として地球温暖化が疑われており、化石燃料に頼る文明には限界が近づいているとも言われています。あらためて言うまでもなく、植物は太陽から降り注ぐエネルギーを直接使うことができます。そして植物は人間や家畜の食料になるばかりではなく、生命に不可欠な酸素の供給源として、また燃料や家屋などの材料として、重要な役割を担ってきました。化石燃料でさえも、もとをただせば太古の植物や藻類が蓄えたエネルギーです。植物を効率良く利用することができれば、化石燃料に過度に依存せずに持続的な発展が期待できます。

そこで平成22年度から理化学研究所では、植物の力を活用したものづくり戦略プロジェクト、「バイオマス工学研究プログラム」をスタートしました。このプロジェクトでは、植物の生命力を活用してバイオマスを増産し、バイオプラスチックの原料として利用するための研究開発を行います。

「細胞が病気を治す」

世界で最初に作成された
iPS細胞(万能細胞)

世界で最初に培養された
ヒトの癌細胞(HeLa細胞)

中村 幸夫
(細胞材料開発室 室長)

私たちの「からだ」は「細胞のかたまり」です。約220種類、総数約60兆個の細胞からできています。私たちの「からだ」の大元は受精卵(卵子と精子が合体した一個の細胞)ですので、受精卵が増えて(細胞分裂)、また、約220種類の特殊な細胞へと変化して(細胞分化)、最終的に約60兆個の「細胞のかたまり」として人間が形成されているわけです。このようにして形成された「からだ」は、一生にわたって不変なわけではありません。

皮膚の細胞は日々新しい細胞に置き換わり、古くなった細胞が「垢」として剥がれ落ちています。胃腸の細胞も毎日盛んに新しい細胞ができていますし、血液細胞も同様です。また、骨折したときに新しい骨を作ってくれるのも細胞です。このように、私たちの「からだ」のなかでは毎日、細胞の新陳代謝が起こっており、それによって私たちの「からだ」を維持しています。

最近話題の「再生医療」という医療は、こうした細胞の能力を利用して、様々な病気を治そうという医療です。特に最近話題となっているのは、皮膚の細胞から受精卵と同じような能力を持った細胞を作る技術を日本人が見つけ出したことです。万能細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)と呼ばれている細胞です。

「すごいぞ!日本のクローン技術」

リンパ球クローン

井上 貴美子
(遺伝工学基盤技術室
専任研究員)

みなさんは体細胞クローンという言葉を聞かれた事があるでしょうか?

SF映画や小説ではよく取り上げられるテーマなので、なんとなく怖いイメージを持っている方もいるかもしれません。体細胞とは私たちの体を主に構成している細胞のことで、体細胞クローンとは体細胞を卵子に注入して、ドナー(元の体細胞を提供した個体)と全く同じ遺伝子を持った個体である「クローン」を新たに作り出すという技術です。 1997年にヒツジを使って初めて報告された比較的新しい生殖工学技術ですが、これまでにマウス・ウシ・ブタ・ヤギ・イヌ・ネコなど15種類以上の動物種で成功が報告されています。 体細胞クローン技術は、医療、基礎生物学、農学、産業、環境保護など幅広い分野に利用できると期待されています。特にバイオリソースセンターでは、体細胞クローン技術を不妊マウス系統や数が少なくて繁殖が困難な系統を安定して継代するために、技術の開発を行っています。 マウスの場合は数十億個の体細胞を持っていると言われているので、理論的には無数のクローンをこの技術によって作り出すことができます。

ところが、実際にはクローンが生まれてくる数は100個の卵子を母親の子宮内に移植したとしてもわずか1~2匹で、この低い出生率が体細胞クローン技術の普及において大きな障壁となっています。世界中の研究者たちがこの障壁を取り除くべく日々研究を行っており、日本人研究者達はその中でも非常に大きな役割を果たしています。

「かたち」と「うごき」

モーションキャプチャ用
光学反射マーカーを装着
したマウス

太田 聡史
(情報解析技術室
専任研究員)

20世紀末から21世紀の初頭にかけて、膨大な量のゲノムデータが解読され、バイオインフォマティックスと呼ばれる新しい分野が発展しました。もはやコンピューターなしで生物を研究することは考えられません。

このような流れの中で、生命現象をもっとコンピューターで扱いやすいデータを用いて研究しようという考え方が脚光を浴びるようになりました。このような生物学のことを定量生物学と呼びます。 ここでの主役は、「かたち」や「うごき」といった、私たちになじみのある情報です。花はとてもきれいですし、小さなマウスの仕草はかわいいですよね。でも、「かたち」や「うごき」のような、人間にとってはごく当たり前のことをコンピューターに教えることは、とても難しいことでした。 人間は、どんな複雑なものを見ても、一瞬にして認識することができます。相手のちょっとした仕草を見ただけで、自分のことを好きか嫌いかどまでわかってしまうくらいです。でも、この何気ない能力は、人間が長い間の進化の結果獲得したもので、簡単に機械に模倣できるものではありません。

しかし、最近の情報科学の発展は、このような「主観的」と言われてきた対象さえ、定量的に扱うことを可能にしつつあります。その主役は広い意味での画像情報処理技術です。映画やコンピューターゲームの世界には、現実と見まがうようなコンピューターグラフィックスが頻繁に使われるようになったことは、みなさんよくご存知ですね。その背景にあるのは、仮想空間内の抽象的な対象を視覚化する技術です。生物の「かたち」のようなとてつもなく有機的なものも、仮想空間内では数学的に表現されます。この技術を有効に活用すれば、いままで手つかずだった複雑な情報をコンピューターで効果的に扱えるようになるでしょう。 「かたち」と「うごき」は、基礎生物学、発生学、進化学、脳神経科学、心理学、医学などにとって、とても重要な情報です。